【図解】コロナショックによるポンド急落についての専門家の考察

今週木曜日までのマーケットで下落率が高かった通貨は、ノルウェー・AUD・ポンド・NZDの順である。

ポンドを除く3通貨はいずれも資源通貨であり、原油価格の急落を見れば特に不思議ではない。

しかし、ポンドの下落率がここまで高いのは、なぜか?それについて考えてみたい。

3月に入ってからのポンド/ドルの動き

3月に入り、マーケットの旬のテーマが「コロナ感染」になってからのポンド/ドルのチャートである。

そこに、英国で起きた主なイベントを書き加えてみた。

テクニカル的に1.27台が下抜けしてからのポンド下落は顕著であるが、それ以外の材料として挙げられるのは、「政府のコロナ対策の過ち」であろう。

ほとんどの欧州諸国では、休校や飲食店を閉めて感染拡大を押さえる努力をしている。

しかし、イギリスだけが「集団免疫」というアプローチを選択した。

これは、出来る限りコロナ免疫者を増やせば、それ以上感染が広がらなくなる方法らしい。

しかし、これを実現するには、最悪期で国民の80%が感染し、790万人が入院という計算となるらしい

これを聞いた国民は、国を挙げての人体実験に使われるのは勘弁して欲しいとばかりに、自主隔離を決め込み食品や生活必需品のパニック買いに走った。

当然野党や保守党議員達も、集団免疫という前代未聞の方法を敢えて選ぶべきなのか?そういう疑問を直接ボリスにぶつけた。

しかし、いまさら方針変更しても時既に遅し・・・という話しが広まり、さらに国民はパニック買いに走った。

英国に住んでいる人間は、この一部始終の動きを見ているので、どうしても英国の株や債券、通貨を手元に保有したくない。

そしてこの手の話しはどんどん広まるので、債券・株・通貨全てにおいて投げが始まったのだろう。

英中銀ベイリー新総裁のインタビュー

3月16日に英中銀新総裁となったベイリーさん。

ポンドが対ドルで1985年来の安値をつけたタイミングで、スカイニュースのインタビューに応じた。

「英中銀はマーケット動向を注視している。どうしてこのような動きになったのか、絶対にこれに違いない!という理由が挙げられない。来週(3月25日)には英中銀金融政策理事会(MPC)が開催されるので、このマーケットの動きが今後の英経済にどのような影響を及ぼすのか、話し合ってみようと考えている。」

出典:http://news.sky.com/story/coronavirus-boe-could-take-radical-money-printing-action-11959670

ここで「来週のMPCで・・」と総裁が仰ったので私は完全に脇を甘くしていたが、この翌日の昼過ぎ、突然の発表があった。

追加利下げとQE枠の増額

ベイリー総裁のTVインタビューの翌日、突然英中銀から発表があった。

「英中銀、政策金利を0.25%から0.1%へカット、資産買い入れプログラム(QE策)再開、規模は2,000億ポンド」

出典:http://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-summary-and-minutes/2020/monetary-policy-summary-for-the-special-monetary-policy-committee-meeting-on-19-march-2020

お決まりの利下げとQE策の発表であるが、奇妙なことが起きた。それは追加緩和発表で、ポンドが上昇したからである。

英中銀緊急会合声明文に答えが?

答えを書く前に、声明文の説明からしたいと思う。

緊急追加緩和発表と同時にリリースされた声明文。読み進めていったら、「あれれ?」と思う箇所に出くわした。

「Over recent days, and in common with a number of other advanced economy bond markets, conditions in the UK gilt market have deteriorated as investors have sought shorter-dated instruments that are closer substitutes for highly liquid central bank reserves.  As a consequence, UK and global financial conditions have tightened. 」

出典:http://www.bankofengland.co.uk/monetary-policy-summary-and-minutes/2020/monetary-policy-summary-for-the-special-monetary-policy-committee-meeting-on-19-march-2020

「最近のマーケットに共通していることは、流動性が豊富な国債の代わりに、より短期の資産が買われていることだ。このように、主要国の国債購入が減少しており、英国債(Gilt)を取り巻く環境も悪化してきた。結果として、英国をはじめとする世界中の金融システムを取り巻く環境がタイト化している

つまり、タイト(引き締まっている)を緩和するために、政策金利を下げ、同時にQE策で国債を買おうということだ。

金融緩和がどうしてポンド買いに繋がるのか?

それではどうして緩和策の発表であるのに、ポンドが上昇したのか?教科書通りの動きであれば、緩和策が発表されれれば通貨安となりやすい。

一番分かりやすい単純な理由としては、ベイリー新総裁は常々「英中銀の政策金利の下限は、0.1%くらい(マイナス金利には興味なし)。」と語っていた。

今回の利下げで政策金利は下限に到達したので、利下げは打ち止めになるとマーケットが理解したからではないか?

もう少し複雑に考えるのであれば、投資家が買わない英国債を中銀が代わりに買う。

結果として、国債の価値は上がる(利回りは低下)ので、投資家たちもその動きに参加する可能性があり、それがポンド買いに繋がるということであろうか?

利回り低下と書いたが、今回はQE策だけでなく、政策金利カットも抱き合わせで発表しているので、その理由からも長期金利は下落して当然ということにもなる。

長期金利が下がれば、企業への融資金利も下がり、経済活性化への期待感が高まる。

しかし、自分で書いていて言うのもおかしいが、全て後付けの理由であまり説得力がない。

一部のアナリストは、短期勢のポンド・ショートが溜まっていたので、その損切りという見方や、「Sell the rumour, buy the fact」という説明をしている人もいた。

どうしても理由を・・・と言われれば、利下げ打ち止め感と、アメリカやヨーロッパ当局のアグレッシブな先手を打つ動きに、英中銀も応えたことによる安心感かもしれない。

ここからのマーケット

今週のマーケットは、ドルの独り勝ちである。

このチャートは、ICE(インターコンチネンタル取引所のドル・インデックス先物であるが、執筆時は103.235となっており、前日終値の101.543からさらにドルが強くなっている。

個人的には、このドル高が治まらない限り、他通貨が上昇する余地があるようには見えない。

出典: ICE(インターコンチネンタル取引所)http://www.theice.com/products/194/US-Dollar-Index-Futures/data?marketId=6076228&span=3

ある米系銀行の試算によれば、コロナ感染が拡大する前のFX市場やヘッジなどでのドル・ショートは、12兆ドル規模であったらしい。

そういう玉がスワップ拡大で、慌てて手仕舞いしている時に、著名なヘッジファンドの損失という話しもあり、この手の切羽詰った玉を全て出し切らない限り、戻りは限定的であろう。

とにかく、今は誰も自信がない。国に対しても社会に対しても、何に対しても希望が持てない。

そうなると、やはり守りの姿勢が強くなり、世界で最も流動性が高い決済通貨/基軸通貨:ドルの需要が高まるのは、納得が行く。

出典: 英国統計局(ONS)http://www.ons.gov.uk/economy/nationalaccounts/balanceofpayments/bulletins/unitedkingdombalanceofpaymentsthepinkbook/2019

長々と書いてしまったが、そろそろ終わりにしよう。

今回のポンド下落で私が最もショックを受けたのは、Brexitで「合意なき離脱リスク」が台頭した時よりも、コロナ危機で大型財政出動を決定した時のほうが、ポンドの下落が激しかったことだ

上記チャートを見ればわかるが、英国は慢性的な経常収支赤字国である。

今回のコロナ騒ぎで、英国政府は金利が低いうちに国債発行を財源としたコロナ対策を発表している。

つまり、今後も経常赤字を増やしながら、政府の財源をやりくりする構図がミエミエである。

それに失望したポンド売りが炸裂したとも言える。

今後は、コロナ危機が収束しても、Brexit交渉に話題が移るため、しばらくポンドは頭の重い展開を強いられるだろう。

これはポンド/ドル週足チャートに200週SMAを載せたものである。

執筆時点ではピンクのサポートレベルを下抜けているが、3月20日の終値ベースでも抜けるているようであれば、もう一段の下げを予想する。

逆にこのラインで下げ止まれば、とりあえず一旦は戻しが期待できるだろう。超短期で1.15/1.20レンジで見ている。    

著者プロフィール

 

松崎 美子(まつざき・よしこ)

スイス銀行東京支店でディーラーアシスタントとして入行する。 その後、1988年に結婚のため渡英。ロンドンを拠点に、バークレイズ銀行本店ディーリングルームに勤務し、日本人初のFXオプション・セールスとなる。 1997年に米投資銀行メリルリンチ・ロンドン支店でFXオプション・セールスを務め、2000年に退職。
その後、個人投資家として為替と株式指数の取引を自宅からスタートしながら、2007年春にブログ『ロンドンFX』や、FX会社のコラムや動画配信、セミナーなどを通じて、日本の個人投資家に向けて欧州直送の情報を発信している。英国在住の為、ポンドの情報については詳しい内容を常に配信し続けている。 著書に「松崎美子のロンドンFX」「ずっと稼げるロンドンFX」(ともに自由国民社) DMMにてオンラインサロン「FXの流儀」を開設。
また2019年よりyoutubeにてライブ配信で生きた欧州情報の配信を行っている。

  • ブログ 「ロンドンFX」
  • Twitter @LondonFX_N20
  • FXの流儀youtubeチャンネル
  • DMMサロン

 

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